2023年12月5日(火)-2024年3月28日(木)

筑波大学芸術系ギャラリー

筑波大学芸術系棟2F
つくばエクスプレス「つくば駅」からバス約10分「筑波大学西」下車
入館無料/09:00→17:00/土・日・祝休日 休館
[主催]筑波大学 芸術系
[お問い合わせ]筑波大学芸術系社会貢献推進室  sct@geijutsu.tsukuba.ac.jp

December 5, 2023- March 28, 2024

UT Institute of Art & Design Gallery
Admission Free
9:00-17:00
Closed: Sat, Sun, and Public Holidays

 

展示作品
岩佐 徹《水たまり》 2005年 板目木版 60.0×91.0cm
作者寄贈(2007年度)
IWASA Toru, Puddle, 2005, wood engraving, 60.0×91.0cm
Gift of the Artist (FY2007)

市川 絢菜《ホテルの木》 2020年 アクリル、カンヴァス  162.0×130.0cm
作者寄贈(2022年度)※新収蔵作品
ICHIKAWA Ayana, Trees Growing at the Hotel, 2020, acrylic on canvas, 162.0×130.0cm
Gift of the Artist (FY2022)*Recent Acquisition

市川 絢菜《Palm Tree and Tower》 2021年 木版,シルクスクリーン 121.0×91.0cm
作者寄贈(2022年度)※新収蔵作品
ICHIKAWA Ayana, Palm Tree and Tower, 2021, woodcut, silkscreen, 121.0×91.0cm
Gift of the Artist (FY2022)*Recent Acquisition

城山 萌々《NOVA》 2010年 リトグラフ 89.0×65.0cm
作者寄贈(2013年度)
SHIROYAMA Momo, NOVA, 2010, lithograph, 89.0×65.0cm
Gift of the Artist (FY2013)

小野 修平《彼岸秘行の夜》 2015年 エッチング・アクアチント・ソフトグランド  60.6×90.0cm
作者寄贈(2017年度)
ONO Shuhei, Secret Parallel Autumun Night, 2015, etching, aquatint and softground, 60.6×90.0cm
Gift of the Artist (FY2017)

小野 修平《城が見える夜》 2017年 エッチング・アクアチント・ソフトグランド  60.6×90.0cm
作者寄贈(2017年度)
ONO Shuhei, A Castle Appears at Night, 2017, etching, aquatint and softground, 60.6×90.0cm
Gift of the Artist (FY2017)

 

筑波大学には、現役および退職教員や卒業・修了生の作品を核にする600点超の芸術資料と、株式会社図書館流通センター代表取締役会長、石井昭氏から寄贈された近世・近代陶磁と近代絵画200余点の石井コレクションで構成される「筑波大学アート・コレクション」があります。このコレクションの形成における特徴は、芸術専門学群の卒業制作と大学院博士前期課程芸術専攻の修了制作から「筑波大学芸術賞」と「茗渓会賞」の受賞作品を毎年、買い上げて収蔵していることです。さらに本コレクションでは退職教員や本学関係者からの寄贈も多数受けています。今回の展示では、昨年寄贈された新収蔵作品を中心として、過去に研究員を務めた若手アーティストの作品6点を紹介します。

UTAC, University of Tsukuba Art Collection, consists of approximately 600 artworks of faculty members and alums and another 200 pieces, the Ishii Collection (100 eastern ceramics and 100 modern paintings and works on paper, donated by Mr. Ishii Akira). The distinctive feature of this collection is that we purchase artworks that have received the first prize (Grand Prize for Outstanding Achievement) and the second prize (Alumni Association’s Prize for Achievement) from the degree shows both Master’s Program in Art and Design and Undergraduate School of Art and Design, every year. Additionally, this collection has received many donations from retired faculty members and artists associated with the university. This exhibition will feature six works by currently active artists who have worked as researchers in the past, with a focus on newly acquired works donated last year.

 


3Dコンテンツ制作:社会貢献推進室

芸術系ギャラリーでの展覧会「オマージュ石膏像」にあわせて、彫塑領域の教員、宮坂慎司が3Dモデルを作製した。像そのものの実地での熟覧にくわえて、3Dモデルによるあらゆる方向、角度からの観察によって、石膏像の製作プロセスと構造を確かめることができる。ここにその3Dモデルを公開するともに、作製した宮坂による「複製の哲学」と題するテキストを収載する。

 

菊地石膏模型所《ファルネーゼのヘラクレス》の3Dモデル

https://poly.cam/capture/1415e294-6b69-41f9-bc90-603c2ec89600

 

複製の哲学

宮坂慎司

右腕を欠くヘラクレス像。しかしながら、不思議と違和感はありません。その姿が自然なのは、ある意味で必然とも言える箇所を境目として腕を失っているからです。どういうことかというと、元々この石膏像では腕は別パーツとして型をつくり、後に接合するという方法でつくられているのです。

石膏像の表層をよく観察すると、そこには型取りの痕跡を見ることができます。まず目につくのはパズルのような構造をしている型の合わせ目です。顔や手、足といった複雑な部分ではより細かな合わせ目の線が見られます。

ここから分かるのは、この像が石膏による割型でつくられたということです。おそらく原型であったのは同形同型の石膏像。現代であれば、硬質な石膏から型を取る際には、ある程度の入り組んだ部分や引っかかりにも対応できるシリコンを用いる選択があります。しかし、菊地が製作にあたっていた当時は、造形の現場にシリコンという素材はまだありません。代わりに、ゼラチンを用いる技法はありましたが、販売用の像を複数つくるためには繰り返しの使用に耐える石膏を用いることが合理的です。つまり、硬質な石膏原型を、同じく硬質な石膏で型取りする必要があり、抜け勾配の型とするために細分化されたピースがつくられました。

割型の跡をあえて削らずに、型取りの痕跡をほぼすべてそのまま残すあたりに、菊地の型取りへの自信の表れが伺えます。型の合わせ目にできたわずかな段差を削ることは、すなわち原型表層の形を削るということです。鑑賞の邪魔にならない限りは、オリジナルから離れるような修正はなるべく行わない方がよい、ということでしょう。そして、この正確な型取りが、複製であっても石膏像に緊張感を与えているのです。型取りの痕跡一つにも、その示し方には複製者として哲学は宿ります。

型取りの工夫はその他の部分にも見られます。実はこの石膏像では、右腕と同じく、左腕、前に踏み出す左脚、棍棒も本体から分けて型を取られたことがわかります。各部分の付け根や接地部分をよくよく観察すると、その痕跡を見つけることができるのです。

これらは、観察と、3Dモデル作成のための撮影過程で気づいたものです。この3Dモデルは、さまざまな方向から撮影した100枚弱程度の写真を合成して作製しました。3Dモデルを作製するためには、像のあらゆる箇所を写すことを心掛けて、視点を少しずつずらして撮影を行います。実体のある形をつくるわけではありませんが、イメージの中では模刻に臨むような感覚もあります。自ずと、撮影者本人も対象をくまなく、それこそ触れるように観察することが求められます。

むろん3Dモデルは本物にはかないませんが、画面上で視点を移動させる行為は能動的な鑑賞に繫がるものだと考えます。また、パースのついた画像データではできないような作品の比較を、あらゆる角度から行うことも可能です。スマートフォンだけでも3Dモデルの作製ができるようになった現代、こうした新たなアプローチからも研究の広がりが期待されます。

(みやさか・しんじ/芸術系助教)

2023年10月4日(水)〜10月27日(金)

筑波大学大学会館アートスペース

午前9時〜午後5時/土日祝休館/入場無料

主催:筑波大学芸術系

企画:寺門臨太郎

 

Selected Works from the Ishii Collection,

University of Tsukuba Art Collection

EI-KYU: Midday Dream

 

October 4 through October 27, 2023

Art Space, University Hall, University of Tsukuba

9:00-17:00, Closed on Sat, Sun, and National Holiday

Organized by Institute of Art and Design, University of Tsukuba

2023年8月1日(火)−11月30日(木)

筑波大学芸術系ギャラリー

09:00~17:00

入館無料

土・日・祝休日休館

主催:筑波大学芸術系

企画:寺門臨太郎

5C棟は、ことし開学半世紀を迎える本学の筑波キャンパスで最も早い時期に竣工した建物です。1970年代の日本におけるモダニズム建築の余光漂う建物の1階西側に配された「大石膏室」には、プレモダン、モダン、ポストモダンを経てなお脈動する伝統的美術アカデミズムの遺風が残っています。

ことし2月、その大石膏室でデッサン教材としての役を終え、木炭粉や砂塵にまみれるばかりの旧い石膏像一躯がみつかりました。高さ70cmほどのその像は、ナポリの国立考古学博物館所蔵の有名な《ファルネーゼのヘラクレス》(3世紀初頭、像高3.17m)の縮小複製です。右腕から先と左指の一部が欠損しているものの、地山背面に残る金属銘板から、工部美術学校彫刻科の一期生、菊地鋳太郎(きくち・とうたろう、1859−1945)が1883年頃に創設した、石膏模型所の製品であることが判りました。製作所の活動が菊地の生前に限られていたとすると、この像は東京高等師範学校の時代に取得され、東京大空襲による大塚校舎(現、東京キャンパス)の焼失の災禍も逃れてきた可能性があります。

17世紀以降、古代や近世の彫刻を原作とする石膏製の模像は、西欧においてデッサン教材、鑑賞と蒐集の対象、美術史学や古典考古学の研究教育ツールとして段階的に展開しました。近代以降、欧米において急激に等閑視されるようになった石膏像は、破壊されて遺棄されることさえありましたが、1980年代以降には美術史学やミュージアム・スタディーズにおける再価値化により新たな学術的役割を得ています。

日本における石膏像は、西欧の美術制度とともに移植された明治時代以降、もっぱらデッサン教材として広まりました。戦後、美術大学や美術学部の入試や授業で不動の人気を博していた石膏像ですが、20世紀も終えるころには元来の役割を失い、センターステージから退いてきています。

原作を模した石膏像は、オリジナルとコピー、作品と非作品を区別し、階層化する西洋近代の価値観そのものの映し鏡ともいえるでしょう。けれども、非西洋的な視点で日本における石膏像を見直すと、そこには受動的で一元的な欧化現象ではない、むしろ能動的で多元的な非西欧化の発現を確かめることができるかもしれません。「オマージュ石膏像」と題する今回の展示は、忘れられていた旧い石膏像に頌歌を寄せ、東京高等師範学校から東京教育大学を経て醸成されてきた本学固有のアートとデザインの教育研究の来し方と行く先を再考する機会となるでしょう。

 

in homage to plaster casts: a heritage of the tokyo higher normal school.

Selected Work from the University of Tsukuba Art Collection. 2023-II.

New Acquisition 2022: Kikuchi Plaster Casting Workshop, Farnese Hercules

 

August 01 – November 30, 2023

UT Institute of Art & Design Gallery

09:00-17:00

Admission Free

Sat., Sun., Public Holidays Closed

Organized by Institute of Art and Design, University of Tsukuba

 

The 5C Building is the earliest building completed on the Tsukuba Campus of the university, which celebrates its half-century anniversary this year. Located on the west half of the ground floor of the 1970s Japanese modernist building, the “Grand Cast Court” still retains the legacy of traditional art academism that pulsated through the pre-modern, modern, and post-modern periods.

In February of this year, an old reproductive plaster cast was found in the Grand Cast Court, no longer used as educational material for dessin, covered in charcoal powder and dust. The approximately 70-centimeter-high statue is a reduced reproduction of the famous Farnese Hercules (early 3rd century, 3.17 m high) from the Naples National Archaeological Museum collection. Although it has lost its right arm and parts of the left finger, the small metal plate on the back of the plinth reveals that it is the product of the Kikuchi Plaster Casting Workshop, founded in 1903 by Kikuchi Totaro, the first student of Sculpture Department of the Tokyo School of Fine Arts. Considering that the workshop was active only during Kikuchi’s lifetime, it is possible that the statue was acquired at the time of the Tokyo Higher Normal School and even escaped the ravages of the Tokyo Air Raid that destroyed the Otsuka School Building (now the Tokyo Campus).

Since the 17th century, plaster casts based on ancient and early modern sculpture have gradually developed in Western Europe as educational materials for dessin, objects to be appreciated and collected, and resources for research in art history and classical archaeology. Though they became rapidly neglected in the West after the modern era, destroyed and abandoned even, they have gained a new role as academic resources through their revalorization in art history and museum studies since the 1980s.

In Japan, plaster casts had spread exclusively as educational materials for dessin since the Meiji era when they were transplanted along with the Western institution of art. While they steadfastly became popular in entrance examinations and studio works at art schools in the post-war period, by the end of the 20th century, they had lost their original role and retreated from the center stage.

Plaster cast, which reproduces the original sculpture, may be a mirror that reflects the hierarchizing modern Western values, distinguishing original and copy, artwork and non-artwork. However, looking at plaster casts in Japan from a non-Western perspective, we may see an active, pluralistic manifestation of non-Westernization rather than a passive, centralized Westernization. This exhibition, entitled “in homage to plaster casts,” will be an opportunity to pay honor to a forgotten plaster cast and to reconsider the past and future of our unique education and research in Art and Design, which has been fostered through the Tokyo Higher Normal School and the Tokyo University of Education.

 

2023年8月1日(火)―9月28日(木)

筑波大学 大学会館アートスペース

9:00-17:00/土日祝休館(および8/14-18休館)/入場無料

美術鑑賞をするとき、作品のみを見る人、作品を見てからタイトルを読む人、タイトルと解説文を読んでから作品をじっくり見る人など、情報を得る順序は鑑賞者によってさまざまですが、 鑑賞の手がかりとして 「タイトル」を確認することが多いのではないでしょうか。タイトルは作品につけられた固有の名前であり、鑑賞者が作品の主題や作者の意図を読み解く上で重要な情報を提供する存在でもあります。本展示では、美術作品とそのタイトルの関係に焦点をあてています。 タイトルの付けられ方によりそれぞれがどのような印象を作品にもたらし、どのように鑑賞に影響するかについて再考する機会を提供します。

When people appreciate art, the order of access to information accompanying the artwork differs for each viewer. Some people look at the work only, some read the title after looking at the work, and some read the title and explanatory text before taking a closer look at the work. In particular, you may often check the “title” as a clue to appreciation. The title is the unique name given to the creation. It is a clue that provides essential information to the viewer in deciphering the work’s subject matter and the artist’s intent. This exhibition focuses on the relationship between the artwork and its title. It provides an opportunity to reconsider the title’s impression on the viewer and how it affects viewing behavior.

 

出品作品 / exhibited works

・渡辺晃一《馬・ウマ・うま・UMA》1995年  油彩、石膏・パネル 180×230㎝

KOICHI Watanabe《A HORSE/a horse /horse /HoRsE》1995 oil on panel with plaster

本作は、基底となる大パネルの上に、四分割状に小パネルを配し、各パネルにはモチーフとして動物の「うま」の頭部がそれぞれ異なる手法で表現される。作品タイトルにある「馬・ウマ・うま・ UMA」の4語は、漢字、カタカナ、ひらがな、ローマ字表記の字面から得られるイメージと画中のモチーフの表現が相互にリンクしていると考えられる。そうなると、「馬」が左方上部、「ウマ」が左方下部、「うま」が右方上部、「UMA」が右方下部にそれぞれ相当しそうだ。この場合、漢字、カタカナ、ひらがな、の表記順に作品パネルを見ていくと、徐々にモチーフの存在が曖昧になってゆき、最終的にローマ字の「UMA」に至ると灰色のモノトーンを基調とした「リトル・グレイ」を彷彿とする「UMA(未確認動物)」となり、全く本質が変わってしまうのがおもしろい。皆さんは四つの表記がどのパネルに対応すると考えるだろうか。

 

・福山菜穂子《ある日のこと》2013年  陶、ガラス

FUKUYAMA Naoko《One day》2013 ceramic, glass

ティーカップ、水差し、トレー。日常使いの何気ない陶器かと思いきや、近づいて目を凝らすとそこには…。カップには小さな窓が並び、玄関らしき入口があり、上階へと続く階段がある。まるで小さな妖精が住んでいるかのようだ。水差しの口からは雲がわき雨の滴が落ちる。トレーには水が蓄えられ、プールのようだ。梯子が見えるから21世紀美術館のスイミング・プールか?(違う) 福田菜穂子の陶器作品には用途を超えた形がある。それは、小さな異世界の入り口のようでもある。ちょっとした遊び心で、日常の一瞬をどこか遠くに飛ばすマジック。使い手の想像力で器を組み合わせれば物語性のある風景も出現しそうだ。お茶を飲む、食事をとるといった日常のシーンが突如リアリティを失って、ファンタジーに変わる。そんな意外な転換が、福田の器の魅力とも言えるだろう。そういえば、おとぎ話の書き出しはどんな言葉から始まっていたか、覚えてる?

 

・西村昭二郎《風ひかる》1977年  紙本着色 91×72.8㎝

NISHIMURA Shojiro《Spring Breeze》1977 mineral pigment, water dried paint, india ink, gold paint and glue on hemp paper

二羽の鳥が描かれており、上部の笹の枝に乗っている鳥は、黄金キンケイの雄。もう一方は一見別の水鳥のように見えるが、こちらは黄金キンケイの雌である。空と地面の境目は曖昧で、画面全体を爽やかなブルーが背景を覆い遠近感を曖昧にしているが、笹の影の描写が二羽の位置関係を巧みに表現する。タイトルの「風光る」は早春の季語で、春の陽光のなかをそよそよと風が吹き渡る様を表す。タイトルを知ると、笹が春の光を受けながら、そよ風に揺らいでいる情景が想像できるのではないだろうか。同じく風を主題にした《風の行方-海》とは、風の強さも季節も、ずいぶん違う。

 

・吉野純《失楽園》1993年 油彩、カンヴァス

YOSHINO Jun《Paradise Lost》1993 oil on canvas 181.8×227.3㎝

「失楽園」は、旧約聖書「創世記」第3章からヘビに唆されアダムとエヴァが神の禁を破り知恵の実を食べ、その罰として神がエデンの園から追放する場面を描いた絵画である。失楽園は、本来神とエデンの園を追放されるアダムとエヴァのやりとりを描いたものが多いが本作は、生命の木の下に佇むヘビとアダムとエヴァの二度と戻れない故郷を思い、嘆く姿を極彩色で描く。赤を大胆に用いた構成は、陽炎のように揺らぐ印象を受け、まさにアダムとエヴァの苦難を表現している。作品だけでは、「失楽園」と想像できないが、モチーフと照らし合わせることで、主題が浮かび上がってくる。本作は、聖書を題材に重厚なマチエールと素朴で詩的なフォルムを用いて描くアカデミックな作品である。

 

・藤田志朗《風の行方—海》1998年 紙本着色

FUJIITA Shiro《Where the Wind Goes – Sea》1998 mineral pigment on hemp paper 181.8×227.3㎝

赤褐色の風景の中で鮮やかな色の旗がたなびいている。画面右、上方に位置する鳥のモチーフは風上を向いているため風見鶏と思われる。その足元には消波ブロックのような立体物、さらにその中から画面左に向かって白い貝殻が綿状に堆積してゆく。これらは、題名にある通り海を連想させるモチーフである。黄土色の地面は浮島で、周りは海かもしれない。遠景には、様々な形の建築物が密集・密着し、近代的でありつつも、その色や造形からは荒涼感や恐ろしさが際立って感じられる。空の色をはじめ、風景はその面積の大半が錆びついたような赤褐色を基調として描かれており、荒廃した街を描いているかのようだ。寂れた雰囲気の中で鮮やかな旗をたなびかせる風はどこへ向かって吹いていくのだろうか。

 

・内田雅三《Hiroshima-90》1990年 油彩、ミクストメディア

UCHIDA Gazo《Hiroshima-90 》1990 oil on mixed media in panel 162.1×227.3㎝

中央には三角形の図形があり、その上に被さるように絵の具が塗られている。画中には他にも影や図形、幾何学的な模様が描かれる。直線や曲線といった規則的な線と中心の激しい筆跡の動きの対比、その筆跡がつくりだす凹凸がこの作品の魅力である。本作品内には一眼でわかるような具象的なモチーフは用いられておらず、太さ、動きの様々な線やそれに伴う影が描写の中心となっており、明らかなモチーフがない分、いっそう画面を構成する図形や色彩、影や線の動きに心惹かれるだろう。具象的な物体は描かれないが、作者が何を思って本作を描いたのかを知るヒントはタイトルにある。《Hiroshima-90》という題には作者の内田にゆかりのある「広島」の名前が含まれる。純粋に画面の魅力を楽しむだけでなく、作者が本作品を制作するにあたって広島の地からどのような着想を得たのかといったことに想いを巡らせてみるのも良いだろう。

 

本展覧会の企画について / About the Exhibition’s Program

本展覧会は、博物館学芸員資格に関わる授業の総仕上げである「博物館実習」のプログラム「学内実習」の成果発表として開催するものです。筑波大学芸術系では、芸術専門学群および大学院の卒業生・修了生の優秀作品、および退職教員などからの寄贈作品を400点以上所蔵しており、受講生たちはこの学内コレクションを活用した小企画展を毎年開催してきました。社会の動きに目を向け、美術館の根幹をなすコレクションをどのような文脈で鑑賞者に提示するのか、そこに企画者の力量が表れます。今年は「タイトル」に着目し、作者と作品、展示と観客の相関関係を問い直す企画となりました。学芸員を目指す学生たちによる展覧会をどうぞご覧ください。

This exhibition is an achievement of practical museological training. The University of Tsukuba has more than 400 artworks given by faculty members and alumni and purchased from awarded students. Each year, students have organized small exhibitions utilizing this on-campus collection. The planner’s competence is revealed in the context in which the collection, which forms the museum’s core, is to be presented to the viewer with an eye on social situation. This year’s exhibition focused on the “title” and questioned the correlation between the artist and the work, and between the museum and the visitors. We would be grateful if the viewers could enjoy the first exhibition of the students who aim to be curators. (Course Instructor)

 

博物館実習2023 芸術系受講者一覧

石船初佳、伊藤紬、江原実祝、遠藤花耶、大石彩乃、奥田琉花、木内英実、笹川元康、竹畠薫、田良島津、永井風花、中谷直子、樋口幸ナギーナ、鶸田佐季、藤井椋子、古瀨秀明、宝田紗和子、三橋美音、和田祐香、渡邉結貴 (五十音順)

授業担当教員

寺門臨太郎、林みちこ、水野裕史(いずれも筑波大学芸術系)

 

Tell’em I TriedGary Mcleod & others

筑波大学会館アートスペース Tsukuba university Art Space

66日〜7月27日(休日:土、日、祝日)

Performance time:火・金 12:00~12:10

VR鑑賞リンクは:https://my.matterport.com/show/?m=MRVZxuaMLeH

開館日:月曜日~金曜日(祝日,年末年始を除く)

開館時間:9:0017:00

問い合わせ:大学会館事務室(TEL.029-853-7959

アクセス:関東鉄道バス:筑波大学中央行き又は筑波大学循環バス「大学会館前」下車

 

Curation : Joan Zhang

Poster Design : Dolgion Ganbayar

 

作家プロフィール・Profile

About Gary McLeod & Others: Gary McLeod is a visual researcher from the UK who uses photography to learn about places. He is an assistant professor in visual communication design at University of Tsukuba in Ibaraki prefecture where he teaches photomedia. ‘Others’ refers to people and things that have contributed to Gary’s learning process either practically or otherwise, but it also refers to the conversations yet to be had with you.

ギャリー マクラウド&アザーズは、フォトグラフィを用いて様々な場所について学習するビジュアルリサーチャーです。茨城県の筑波大学にて、ビジュアルデザイン分野の助教としてフォトメディアを教えています。「アザーズ」とは、プロジェクトに参加ないしは他の形で貢献をして下さった人々や、物事を意味しています。

展示ステートメント・Exhibition Statement

Since 2019 I have been making trips to Iwate prefecture to rephotograph changes in the landscape. It started with Kamaishi and Ofunato in November 2019, followed by Kuji, Tanohata, Taro and Miyako at the end of that year, then Rikuzentakata and Kamaishi again in February 2020, Kamaishi and Ofunato in March 2020 just before pandemic measures kicked in, Kamaishi again with students in November 2020 with a short trip to Ofunato, followed by a longer visit to Kamaishi in March 2021, another in July when the delayed Olympics began, another with students in September, and another trip at the end of the year combined with Ofunato. These were followed by an exhibition in Kamaishi in March 2022, trips to Ichinoseki, Ohara, Oshu and Tono with students in July, further trips to Kitakami, Ohara, Orikabe, and Ichinoseki again in September, and two trips to Kamaishi in the autumn of 2022. Trips to Tono and Hanamaki in the February snow of 2023 were followed by a road trip stopping overnight at Kuji, Tanohata and Miyako in March, and a second exhibition in Kamaishi a week later, and then returning trips to Kitakami, Oshu, Ohara, Orikabe, Tono and Hanamaki at the end of May. 

Listing places was necessary so that you know them, will think about them, and perhaps even remember them if you have visited them before. This exhibition is not about comparing these places; rather it is about photomediated representations of change in these places. Specifically, the exhibition is an entry point into the kinds of change that are necessary or hoped for. These are not concrete assumptions but uncertain observations, ever aware of the fragility of photomedia and its need for belief. Regardless of opinions about change, this is a landscape that is and will continue to be associated with disaster and recovery, sea walls and rocky shores, depopulation and migration, and as a ‘playground’ for photographers and scientists alike. The title of the exhibition is “Tell ‘em I tried”, a casual British shortening of “Tell them I tried”, but I’m not telling you who “them” are. Nor am I asking you to work it out on your own. Rather, I present you a sort of map for orientation. After all, that is what photographs are but have cease to become.

この作品は2019年から制作し始めた。リフォトグラフの手法を用いて岩手県を中心にランドスケープの変化を考察している。作家ギャリー·マクラウド&アザーズが2019年の11月に釜石市と大船渡市を撮り始め、同年末に久慈市、田野畑村、田老市、宮古市を訪れて撮影した。20202月に再び陸前高田市と釜石市を撮影し、パンデミック対策が始まる直前の2020年の3月に釜石市と大船渡市に戻ってリフォトグラフした。そして2020年の11月に学生たちと一緒に釜石市と大船渡市を旅行し、翌年の3月から釜石市に滞在した。延期開催されたオリンピックが始まった7月にも学生たちと、9月にも、そして年末には大船渡市に訪れた。ここまで釜石市を中心に再撮影した写真が去年の3月に釜石市で展示された。その後、7月に学生と一関市、大原、奥州市、遠野市への旅行、さらに9月に北上市、大原、折壁、再び一関市を旅行した。そのほか、去年の秋に2回、釜石市を旅行した。今年の2月に雪が降る中で遠野市と花巻市に行った後、3月に久慈市、田野畑村、宮古市に一泊するロードトリップを行った。1週間後に釜石市で2度目の展示、5月末に北上市、奥州市、大原、折壁、遠野市、花巻市に再訪の旅となった。

その場所を知り、その場所について考え、または以前に訪れた人がいれば、思い出すかもしれない。そのために、場所を列挙することは必要だ。今回の展示は、これらの場所を比較するつもりではなく、これらの場所の変化をフォトメディアで表現することを試みる。この展示は、どのような変化が必要なのか、あるいはどのような変化が望まれるのかを考えるための入口となる。これは具体的な仮説ではなく、不確かな観察であり、フォトメディアのもろさや信念の必要性を常に意識している。これらのランドスケープ写真は、変化についての理解にかかわらず、災害と復興、防波堤と岩場、過疎と移住、そして撮影者と科学者の「遊園地」として展示されている。展示のタイトルは「Tell ‘em I tried」で、「Tell them I tried」を簡略化したものが、「them」が誰なのかを教えているわけでもなく、鑑賞者たちに考えさせるわけでもない。むしろ、方向づけのための地図のようなものを提示する。それが写真であり、写真でなくなってしまったものでもある。

 

 

筑波大学アート・ストリートの2023年度展示計画を公開します。
We are releasing the newest exhibition schedule for the UT Art Street.

PDF版を下記のURLより確認できます。

筑波大学アート・ストリート2023年度展示計画

筑波大学アート・コレクション選 2023-1

茗渓会賞受賞作品より

 

2023年4月11日(火)- 7月27日(木)

筑波大学芸術系ギャラリー

筑波大学芸術系棟2F
つくばエクスプレス「つくば駅」からバス約10分「筑波大学西」下車
入館無料/09:00→17:00/土・日・祝休日 休館
[主催]筑波大学 芸術系
[お問い合わせ]筑波大学芸術系社会貢献推進室  sct@geijutsu.tsukuba.ac.jp

University of Tsukuba Art Collection
Selected Works 2023-1
Works from the Alumni Association’s Prize

April 11- July 27, 2023

UT Institute of Art & Design Gallery
Admission Free
9:00-17:00
Closed: Sat, Sun, and Public Holidays

 

展示作品
森本真依子《Winsomely》2007年 油彩、綿布 227.3×363.6 cm
平成18年度茗渓会賞(卒業研究)
MORIMOTO Maiko, Winsomely, 2007, oil on cotton cloth 227.3×363.6 cm
Alumni Association’s Prize for Achievement in Undergraduate School of Art and Design, 2006

河原由佳《アトリエ》2017年 油彩・マーカー、綿布 194.0×260.6 cm
平成28年度茗渓会賞(卒業研究)
KAWAHARA  Yuka, Atelier, 2017, oil and marker pen on cotton cloth 194.0×260.6 cm
Alumni Association’s Prize for Achievement in Undergraduate School of Art and Design, 2016

馬場洋《風紋》2008年 油彩・テンペラ、白亜地・綿布 194.0×259.0 cm
平成20年度茗渓会賞(修了研究)
BABA  Hiroshi, Wind Ripples, 2008, oil and tempera, chalk ground on cotton cloth 194.0×259.0 cm
Alumni Association’s Prize for Achievement Master’s Program in Art and Design, 2008

筑波大学には、現役および退職教員や卒業・修了生の作品を核にする600点超の芸術資料と、株式会社図書館流通センター代表取締役会長、石井昭氏から寄贈された近世・近代陶磁と近代絵画200余点の石井コレクションで構成される「筑波大学アート・コレクション」があります。このコレクションの形成における最大の特徴は、芸術専門学群の卒業制作と大学院博士前期課程芸術専攻の修了制作から「筑波大学芸術賞」と「茗渓会賞」の受賞作品を毎年、買い上げて収蔵していることです。今回の展示では、「茗渓会賞」受賞作品から3点を選びご紹介します。

UTAC, University of Tsukuba Art Collection, consists of some 600 artworks of faculty members and alums and another 200 pieces, the Ishii Collection (100 eastern ceramics and 100 modern paintings and works on paper, donated by Mr. Ishii Akira). The most distinctive feature of this collection is that we purchase artworks that have received the first prize (Grand Prize for Outstanding Achievement) and the second prize (Alumni Association’s Prize for Achievement) from the degree shows both Master’s Program in Art and Design and Undergraduate School of Art and Design, every year. In this exhibition, we will introduce three selected pieces from the second prize (Alumni Association’s Prize for Achievement) winning works.

 

漆は、「和」を象徴する素材ですが、実際には、東アジアの国々においても広く用いられています。そこで、漆文化を通じて、国内外の東アジア諸大学との国際的ネットワークを強化・拡大していくことを目的の一つに、「東アジアにおける漆文化交流の推進とその継続的支援体制の構築」というプロジェクトを立ち上げました。今回の展覧会は、本プロジェクト企画の一つであり、第一期と第二期に分けて開催します。 

第一期では、筑波大学アート・コレクションの中から漆が用いられた収蔵作品5点を展示します。また、それらの実践について考察を行い、「つくばグローバル・サイエンス・ウィーク(TGSW)2022」にて発表を行った内容をパネル展示します。漆を通して、他大学との交流を実施するにあたり、まずは、筑波大学芸術系において、漆造形に関する教育研究がどのように行われてきたのかを、本展覧会を通して振り返ることとしました。 

 

-工芸・彫塑の視点から- 

筑波大学芸術系では、工芸と彫塑、それぞれの領域において漆造形の実践が行われてきました。筑波大学アート・コレクションを見ていくと、共通の技法として「乾漆」が浮かび上がってきます。乾漆とは、漆で麻布を貼り重ね、支持体を形成する技法です。両領域による、乾漆を用いた造形表現を複合的に捉え直すと、「装飾的表現」と「彫刻的表現」の二つの特性を見出すことができました。この二つの特性が、乾漆ならではの漆造形表現を生み出し、本学アート・コレクション作品に見られる表現性に結実していると言えるでしょう。 

 

本展示は令和4年度 筑波大学人間総合科学学術院・研究科戦略プロジェクト採択課題「東アジアにおける漆文化交流の推進とその継続的支援体制の構築」の成果発表の一部です。 

 

2023年1月16日(月)〜124日(火) 

筑波大学芸術系ギャラリー 

筑波大学芸術系棟2F 

つくばエクスプレス「つくば駅」からバス約10分「筑波大学西」下車
入館無料/09:00→17:00/土・日・祝休日 休館
[主催]筑波大学 芸術系
[お問い合わせ]筑波大学芸術系 川島史也 kawashima.fumiya.gu@u.tsukuba.ac.jp 

 

出品作品一覧 

川村さやか / Sayaka Kawamura 《北の文様》/《Northern Pattern》 2013, 砥の粉麻布卵殻 / Lacquer, Polishing powder, Hemp cloth, Eggshell, 210×170×70.0 cm, 平成24年度(2012年度)茗渓会賞(修了研究) 

長内夏希 / Natsuki Osanai  《りんごは落ちる》/《An apple is falling》 2014, 砥の粉麻布 / Lacquer, Polishing powder, Hemp cloth, Wood, Iron, 106×89.0×122 cm  

飯島聡惠 / Stoe Iijima 《黄色いゼラニウムの咲く場所で》/《The Place Where Yellow Geraniums Bloom》 2015, 砥の粉麻布顔料 / Lacquer, Polishing powder, Hemp cloth, Pigments, 135×320×60.0 cm, 平成26年度(2014年度)筑波大学芸術賞(修了研究) 

宮田岳 / Gaku Miyata 《天を仰ぐ円》/《Circles Catch the Heavens》 

2017, ユリノキスギ / Liriodendron, Cedar, Japanese lacquer, 160×500×240 cm, 平成28年度(2016年度)筑波大学芸術賞(修了研究) 

小谷恵子 / Keiko Kodani 《記憶》/《Memory》 2017, 漆、カツラスタイロフォーム / Lacquer, Katsura, Styrofoam, 80.0×120×70.0 cm, 平成28年度(2016年度)茗渓会賞(卒業研究) 

2枚の絵と1対の彫像が展示されたギャラリー室内の画像

2022年8月1日(月)―9月29日(木)
筑波大学芸術系ギャラリー(筑波大学芸術系棟2階)
9:00-17:00/土日祝休館/入場無料

perspectiveの語源とされるラテン語には、「入念に見る」という意味がある。今日perspectiveは、さまざまな物事に対するわたしたちの視点や見方、考え方、さらには見通しや遠近感などを表している。

SNSなどを介して、ある答えに簡単にアクセスできる現代社会において、わたしたちは自ら思考することを放棄してはいないだろうか。美術作品をめぐってもまた、批評家による評価や解釈と、メディアによる仕掛けに縛られて鑑賞してはいないだろうか。しかし、作品がもつ魅力は、単に既存の解釈によって引き出されるのではなく、むしろわたしたち自身が一見して感じとり、自分なりに「入念に見る」ことで気づく部分も多い。

今回の展示では、鑑賞する位置やアプローチのしかたの変化によって「入念に見る」ことの多様な糸口が提示される作品3点を選んだ。遠くから見えていたものが、近くに立つとまったく異なって見えるかもしれない。遠くからだと平板なイメージとして捉えられていたものが、近づくにつれて、その世界に入り込むような感覚を覚えさせるものに変わるかもしれない。また、作者の意図に沿いながら鑑賞する場合と、作者自身も想定していなかったような視点で鑑賞する場合とでは、その作品から得られる印象が違ってくるだろう。単に「見」るだけでなく、視点を変えて「み」ることで、それぞれの作品世界の広がりを体験してほしい。

出品作品

  • 舩岳紘行《底の手》2010年  油彩、綿布;パネルに貼付  194.3×130 cm
  • 福田健二《霖雨》2010年  紙本彩色  181.8×227.3 cm
  • 土井敬真《もう、ずっと待ってる》1999年  樟、松​  180×247×152 cm

本展覧会の企画について

この展覧会は、博物館学芸員資格に関わる授業の総仕上げである「博物館実習」のプログラム「学内実習」の成果です。筑波大学芸術系では、現職および退職教員や、芸術専門学群および大学院の卒業・修了生からの寄贈作品や卒業・修了制作の優秀作品など400点以上を管理していますが、受講生はグループに分かれ、コンペティション形式でこの学内コレクションを活用した展覧会企画案を立案しました。実施案として全員で取り組むために最終的に選ばれたのが、本企画です。今年の企画案にはこの2年半のコロナ禍における他者との距離に関するものが多くみられました。社会の動きに目を向け、美術館の根幹をなすコレクションをどのような文脈で鑑賞者に提示するのか、そこに企画者の力量が表れます。学芸員を目指す学生たちの初めての企画をどうぞご覧ください。(林みちこ)

博物館実習2022 芸術系受講者一覧

荒井優月、市川結己、伊藤夢絵、稲田和巳、江里萌瑛、江本萌衣、大平香純、木下碧、小池真莉、嵯峨未玲、里村亜呼、下山雄大、正原摂子、白圡恵、波村桜子、藤川朋伽、藤村美吹、宮川嵩広(五十音順)

授業担当教員

寺門臨太郎、林みちこ、水野裕史(いずれも筑波大学芸術系)


鑑賞の手引き

舩岳紘行《底の手》

画面いっぱいに、皺の一本一本や血色のグラデーションが克明に見えるほどに大きく、両手が描き出されています。強い光で照らされた手のひらには、さらりとした質感の白い何かが包まれており、中から小さな四肢が突き出ています。もしかすると、人が埋もれて身動きが取れない状態なのかもしれません。画面の下部で立ち込める暗雲からは火山の噴火口が顔を出しており、両手は遥か上空から差し出されているのだと想像されます。

この作品は、あらゆる観点から鑑賞することができるでしょう。例えば、画中の場所はどこなのか。巨大な手やそれに包まれる白い何か、突き出た四肢はどのような存在で、何を意味しているのか。題名の「底」とは何を指しているのか。画面の外にはどのような世界が広がっているのか……自分なりの分析で想像を深めていくと、作品に対する新たな発見を得られるはずです。

福田健二《霖雨》

背の高い木々が立ち並び、地面には朽ちた木が転がっています。画面中央部で木々の間が開けると、奥に向かって白く、明るい空間が広がっています。白い光はいったいどこまで続いているのでしょうか。

一つひとつの木や葉を観察すると、鮮やかな青、緑などいくつもの色彩が調和しあって、それぞれのものと位置関係を表現しているのが分かります。例えば手前の木と奥の木を見比べると、どのような違いがあるでしょうか。

「霖雨(りんう)」とは、何日も降り続く長雨のことで、渇きを癒す恵みの雨という意味もあります。

作品を観察して、見つけたことを結び付けていくと、はじめて作品を見たときとは異なる視点が生まれてくることでしょう。

土井敬真《もう、ずっと待ってる》

二人の男性が立っています。一人は顎に手を添えて、もう一人はポケットに手を入れて、なんだか手持ち無沙汰な様子。足元にはレンガを思わせる暖色の床面と手前から奥に向かって斜線状に敷かれた点字ブロックが見られ、二人のいる場所を想起させます。また、長袖に長ズボンといった二人の服装から、この作品内に漂うひんやりとした秋冬の空気を感じ取ることができます。

さて、この二人は一体どのような関係なのでしょうか。それは二人の間にある微妙な距離感や視線を向ける方向、その表情と仕草、あるいは題名から読み取ることができるかもしれません。何をしているのか、見つめる先に何があるのか、私たち鑑賞者は彼らにとってどのような存在なのか、読み取った要素から想像してみれば、きっと新たな作品の魅力に出会えるでしょう。