2023年12月5日(火)-2024年3月28日(木)

筑波大学芸術系ギャラリー

筑波大学芸術系棟2F
つくばエクスプレス「つくば駅」からバス約10分「筑波大学西」下車
入館無料/09:00→17:00/土・日・祝休日 休館
[主催]筑波大学 芸術系
[お問い合わせ]筑波大学芸術系社会貢献推進室  sct@geijutsu.tsukuba.ac.jp

December 5, 2023- March 28, 2024

UT Institute of Art & Design Gallery
Admission Free
9:00-17:00
Closed: Sat, Sun, and Public Holidays

 

展示作品
岩佐 徹《水たまり》 2005年 板目木版 60.0×91.0cm
作者寄贈(2007年度)
IWASA Toru, Puddle, 2005, wood engraving, 60.0×91.0cm
Gift of the Artist (FY2007)

市川 絢菜《ホテルの木》 2020年 アクリル、カンヴァス  162.0×130.0cm
作者寄贈(2022年度)※新収蔵作品
ICHIKAWA Ayana, Trees Growing at the Hotel, 2020, acrylic on canvas, 162.0×130.0cm
Gift of the Artist (FY2022)*Recent Acquisition

市川 絢菜《Palm Tree and Tower》 2021年 木版,シルクスクリーン 121.0×91.0cm
作者寄贈(2022年度)※新収蔵作品
ICHIKAWA Ayana, Palm Tree and Tower, 2021, woodcut, silkscreen, 121.0×91.0cm
Gift of the Artist (FY2022)*Recent Acquisition

城山 萌々《NOVA》 2010年 リトグラフ 89.0×65.0cm
作者寄贈(2013年度)
SHIROYAMA Momo, NOVA, 2010, lithograph, 89.0×65.0cm
Gift of the Artist (FY2013)

小野 修平《彼岸秘行の夜》 2015年 エッチング・アクアチント・ソフトグランド  60.6×90.0cm
作者寄贈(2017年度)
ONO Shuhei, Secret Parallel Autumun Night, 2015, etching, aquatint and softground, 60.6×90.0cm
Gift of the Artist (FY2017)

小野 修平《城が見える夜》 2017年 エッチング・アクアチント・ソフトグランド  60.6×90.0cm
作者寄贈(2017年度)
ONO Shuhei, A Castle Appears at Night, 2017, etching, aquatint and softground, 60.6×90.0cm
Gift of the Artist (FY2017)

 

筑波大学には、現役および退職教員や卒業・修了生の作品を核にする600点超の芸術資料と、株式会社図書館流通センター代表取締役会長、石井昭氏から寄贈された近世・近代陶磁と近代絵画200余点の石井コレクションで構成される「筑波大学アート・コレクション」があります。このコレクションの形成における特徴は、芸術専門学群の卒業制作と大学院博士前期課程芸術専攻の修了制作から「筑波大学芸術賞」と「茗渓会賞」の受賞作品を毎年、買い上げて収蔵していることです。さらに本コレクションでは退職教員や本学関係者からの寄贈も多数受けています。今回の展示では、昨年寄贈された新収蔵作品を中心として、過去に研究員を務めた若手アーティストの作品6点を紹介します。

UTAC, University of Tsukuba Art Collection, consists of approximately 600 artworks of faculty members and alums and another 200 pieces, the Ishii Collection (100 eastern ceramics and 100 modern paintings and works on paper, donated by Mr. Ishii Akira). The distinctive feature of this collection is that we purchase artworks that have received the first prize (Grand Prize for Outstanding Achievement) and the second prize (Alumni Association’s Prize for Achievement) from the degree shows both Master’s Program in Art and Design and Undergraduate School of Art and Design, every year. Additionally, this collection has received many donations from retired faculty members and artists associated with the university. This exhibition will feature six works by currently active artists who have worked as researchers in the past, with a focus on newly acquired works donated last year.

 


3Dコンテンツ制作:社会貢献推進室

芸術系ギャラリーでの展覧会「オマージュ石膏像」にあわせて、彫塑領域の教員、宮坂慎司が3Dモデルを作製した。像そのものの実地での熟覧にくわえて、3Dモデルによるあらゆる方向、角度からの観察によって、石膏像の製作プロセスと構造を確かめることができる。ここにその3Dモデルを公開するともに、作製した宮坂による「複製の哲学」と題するテキストを収載する。

 

菊地石膏模型所《ファルネーゼのヘラクレス》の3Dモデル

https://poly.cam/capture/1415e294-6b69-41f9-bc90-603c2ec89600

 

複製の哲学

宮坂慎司

右腕を欠くヘラクレス像。しかしながら、不思議と違和感はありません。その姿が自然なのは、ある意味で必然とも言える箇所を境目として腕を失っているからです。どういうことかというと、元々この石膏像では腕は別パーツとして型をつくり、後に接合するという方法でつくられているのです。

石膏像の表層をよく観察すると、そこには型取りの痕跡を見ることができます。まず目につくのはパズルのような構造をしている型の合わせ目です。顔や手、足といった複雑な部分ではより細かな合わせ目の線が見られます。

ここから分かるのは、この像が石膏による割型でつくられたということです。おそらく原型であったのは同形同型の石膏像。現代であれば、硬質な石膏から型を取る際には、ある程度の入り組んだ部分や引っかかりにも対応できるシリコンを用いる選択があります。しかし、菊地が製作にあたっていた当時は、造形の現場にシリコンという素材はまだありません。代わりに、ゼラチンを用いる技法はありましたが、販売用の像を複数つくるためには繰り返しの使用に耐える石膏を用いることが合理的です。つまり、硬質な石膏原型を、同じく硬質な石膏で型取りする必要があり、抜け勾配の型とするために細分化されたピースがつくられました。

割型の跡をあえて削らずに、型取りの痕跡をほぼすべてそのまま残すあたりに、菊地の型取りへの自信の表れが伺えます。型の合わせ目にできたわずかな段差を削ることは、すなわち原型表層の形を削るということです。鑑賞の邪魔にならない限りは、オリジナルから離れるような修正はなるべく行わない方がよい、ということでしょう。そして、この正確な型取りが、複製であっても石膏像に緊張感を与えているのです。型取りの痕跡一つにも、その示し方には複製者として哲学は宿ります。

型取りの工夫はその他の部分にも見られます。実はこの石膏像では、右腕と同じく、左腕、前に踏み出す左脚、棍棒も本体から分けて型を取られたことがわかります。各部分の付け根や接地部分をよくよく観察すると、その痕跡を見つけることができるのです。

これらは、観察と、3Dモデル作成のための撮影過程で気づいたものです。この3Dモデルは、さまざまな方向から撮影した100枚弱程度の写真を合成して作製しました。3Dモデルを作製するためには、像のあらゆる箇所を写すことを心掛けて、視点を少しずつずらして撮影を行います。実体のある形をつくるわけではありませんが、イメージの中では模刻に臨むような感覚もあります。自ずと、撮影者本人も対象をくまなく、それこそ触れるように観察することが求められます。

むろん3Dモデルは本物にはかないませんが、画面上で視点を移動させる行為は能動的な鑑賞に繫がるものだと考えます。また、パースのついた画像データではできないような作品の比較を、あらゆる角度から行うことも可能です。スマートフォンだけでも3Dモデルの作製ができるようになった現代、こうした新たなアプローチからも研究の広がりが期待されます。

(みやさか・しんじ/芸術系助教)

2023年8月1日(火)−11月30日(木)

筑波大学芸術系ギャラリー

09:00~17:00

入館無料

土・日・祝休日休館

主催:筑波大学芸術系

企画:寺門臨太郎

5C棟は、ことし開学半世紀を迎える本学の筑波キャンパスで最も早い時期に竣工した建物です。1970年代の日本におけるモダニズム建築の余光漂う建物の1階西側に配された「大石膏室」には、プレモダン、モダン、ポストモダンを経てなお脈動する伝統的美術アカデミズムの遺風が残っています。

ことし2月、その大石膏室でデッサン教材としての役を終え、木炭粉や砂塵にまみれるばかりの旧い石膏像一躯がみつかりました。高さ70cmほどのその像は、ナポリの国立考古学博物館所蔵の有名な《ファルネーゼのヘラクレス》(3世紀初頭、像高3.17m)の縮小複製です。右腕から先と左指の一部が欠損しているものの、地山背面に残る金属銘板から、工部美術学校彫刻科の一期生、菊地鋳太郎(きくち・とうたろう、1859−1945)が1883年頃に創設した、石膏模型所の製品であることが判りました。製作所の活動が菊地の生前に限られていたとすると、この像は東京高等師範学校の時代に取得され、東京大空襲による大塚校舎(現、東京キャンパス)の焼失の災禍も逃れてきた可能性があります。

17世紀以降、古代や近世の彫刻を原作とする石膏製の模像は、西欧においてデッサン教材、鑑賞と蒐集の対象、美術史学や古典考古学の研究教育ツールとして段階的に展開しました。近代以降、欧米において急激に等閑視されるようになった石膏像は、破壊されて遺棄されることさえありましたが、1980年代以降には美術史学やミュージアム・スタディーズにおける再価値化により新たな学術的役割を得ています。

日本における石膏像は、西欧の美術制度とともに移植された明治時代以降、もっぱらデッサン教材として広まりました。戦後、美術大学や美術学部の入試や授業で不動の人気を博していた石膏像ですが、20世紀も終えるころには元来の役割を失い、センターステージから退いてきています。

原作を模した石膏像は、オリジナルとコピー、作品と非作品を区別し、階層化する西洋近代の価値観そのものの映し鏡ともいえるでしょう。けれども、非西洋的な視点で日本における石膏像を見直すと、そこには受動的で一元的な欧化現象ではない、むしろ能動的で多元的な非西欧化の発現を確かめることができるかもしれません。「オマージュ石膏像」と題する今回の展示は、忘れられていた旧い石膏像に頌歌を寄せ、東京高等師範学校から東京教育大学を経て醸成されてきた本学固有のアートとデザインの教育研究の来し方と行く先を再考する機会となるでしょう。

 

in homage to plaster casts: a heritage of the tokyo higher normal school.

Selected Work from the University of Tsukuba Art Collection. 2023-II.

New Acquisition 2022: Kikuchi Plaster Casting Workshop, Farnese Hercules

 

August 01 – November 30, 2023

UT Institute of Art & Design Gallery

09:00-17:00

Admission Free

Sat., Sun., Public Holidays Closed

Organized by Institute of Art and Design, University of Tsukuba

 

The 5C Building is the earliest building completed on the Tsukuba Campus of the university, which celebrates its half-century anniversary this year. Located on the west half of the ground floor of the 1970s Japanese modernist building, the “Grand Cast Court” still retains the legacy of traditional art academism that pulsated through the pre-modern, modern, and post-modern periods.

In February of this year, an old reproductive plaster cast was found in the Grand Cast Court, no longer used as educational material for dessin, covered in charcoal powder and dust. The approximately 70-centimeter-high statue is a reduced reproduction of the famous Farnese Hercules (early 3rd century, 3.17 m high) from the Naples National Archaeological Museum collection. Although it has lost its right arm and parts of the left finger, the small metal plate on the back of the plinth reveals that it is the product of the Kikuchi Plaster Casting Workshop, founded in 1903 by Kikuchi Totaro, the first student of Sculpture Department of the Tokyo School of Fine Arts. Considering that the workshop was active only during Kikuchi’s lifetime, it is possible that the statue was acquired at the time of the Tokyo Higher Normal School and even escaped the ravages of the Tokyo Air Raid that destroyed the Otsuka School Building (now the Tokyo Campus).

Since the 17th century, plaster casts based on ancient and early modern sculpture have gradually developed in Western Europe as educational materials for dessin, objects to be appreciated and collected, and resources for research in art history and classical archaeology. Though they became rapidly neglected in the West after the modern era, destroyed and abandoned even, they have gained a new role as academic resources through their revalorization in art history and museum studies since the 1980s.

In Japan, plaster casts had spread exclusively as educational materials for dessin since the Meiji era when they were transplanted along with the Western institution of art. While they steadfastly became popular in entrance examinations and studio works at art schools in the post-war period, by the end of the 20th century, they had lost their original role and retreated from the center stage.

Plaster cast, which reproduces the original sculpture, may be a mirror that reflects the hierarchizing modern Western values, distinguishing original and copy, artwork and non-artwork. However, looking at plaster casts in Japan from a non-Western perspective, we may see an active, pluralistic manifestation of non-Westernization rather than a passive, centralized Westernization. This exhibition, entitled “in homage to plaster casts,” will be an opportunity to pay honor to a forgotten plaster cast and to reconsider the past and future of our unique education and research in Art and Design, which has been fostered through the Tokyo Higher Normal School and the Tokyo University of Education.

筑波大学アート・コレクション選 2023-1

茗渓会賞受賞作品より

 

2023年4月11日(火)- 7月27日(木)

筑波大学芸術系ギャラリー

筑波大学芸術系棟2F
つくばエクスプレス「つくば駅」からバス約10分「筑波大学西」下車
入館無料/09:00→17:00/土・日・祝休日 休館
[主催]筑波大学 芸術系
[お問い合わせ]筑波大学芸術系社会貢献推進室  sct@geijutsu.tsukuba.ac.jp

University of Tsukuba Art Collection
Selected Works 2023-1
Works from the Alumni Association’s Prize

April 11- July 27, 2023

UT Institute of Art & Design Gallery
Admission Free
9:00-17:00
Closed: Sat, Sun, and Public Holidays

 

展示作品
森本真依子《Winsomely》2007年 油彩、綿布 227.3×363.6 cm
平成18年度茗渓会賞(卒業研究)
MORIMOTO Maiko, Winsomely, 2007, oil on cotton cloth 227.3×363.6 cm
Alumni Association’s Prize for Achievement in Undergraduate School of Art and Design, 2006

河原由佳《アトリエ》2017年 油彩・マーカー、綿布 194.0×260.6 cm
平成28年度茗渓会賞(卒業研究)
KAWAHARA  Yuka, Atelier, 2017, oil and marker pen on cotton cloth 194.0×260.6 cm
Alumni Association’s Prize for Achievement in Undergraduate School of Art and Design, 2016

馬場洋《風紋》2008年 油彩・テンペラ、白亜地・綿布 194.0×259.0 cm
平成20年度茗渓会賞(修了研究)
BABA  Hiroshi, Wind Ripples, 2008, oil and tempera, chalk ground on cotton cloth 194.0×259.0 cm
Alumni Association’s Prize for Achievement Master’s Program in Art and Design, 2008

筑波大学には、現役および退職教員や卒業・修了生の作品を核にする600点超の芸術資料と、株式会社図書館流通センター代表取締役会長、石井昭氏から寄贈された近世・近代陶磁と近代絵画200余点の石井コレクションで構成される「筑波大学アート・コレクション」があります。このコレクションの形成における最大の特徴は、芸術専門学群の卒業制作と大学院博士前期課程芸術専攻の修了制作から「筑波大学芸術賞」と「茗渓会賞」の受賞作品を毎年、買い上げて収蔵していることです。今回の展示では、「茗渓会賞」受賞作品から3点を選びご紹介します。

UTAC, University of Tsukuba Art Collection, consists of some 600 artworks of faculty members and alums and another 200 pieces, the Ishii Collection (100 eastern ceramics and 100 modern paintings and works on paper, donated by Mr. Ishii Akira). The most distinctive feature of this collection is that we purchase artworks that have received the first prize (Grand Prize for Outstanding Achievement) and the second prize (Alumni Association’s Prize for Achievement) from the degree shows both Master’s Program in Art and Design and Undergraduate School of Art and Design, every year. In this exhibition, we will introduce three selected pieces from the second prize (Alumni Association’s Prize for Achievement) winning works.

 

漆は、「和」を象徴する素材ですが、実際には、東アジアの国々においても広く用いられています。そこで、漆文化を通じて、国内外の東アジア諸大学との国際的ネットワークを強化・拡大していくことを目的の一つに、「東アジアにおける漆文化交流の推進とその継続的支援体制の構築」というプロジェクトを立ち上げました。今回の展覧会は、本プロジェクト企画の一つであり、第一期と第二期に分けて開催します。 

第一期では、筑波大学アート・コレクションの中から漆が用いられた収蔵作品5点を展示します。また、それらの実践について考察を行い、「つくばグローバル・サイエンス・ウィーク(TGSW)2022」にて発表を行った内容をパネル展示します。漆を通して、他大学との交流を実施するにあたり、まずは、筑波大学芸術系において、漆造形に関する教育研究がどのように行われてきたのかを、本展覧会を通して振り返ることとしました。 

 

-工芸・彫塑の視点から- 

筑波大学芸術系では、工芸と彫塑、それぞれの領域において漆造形の実践が行われてきました。筑波大学アート・コレクションを見ていくと、共通の技法として「乾漆」が浮かび上がってきます。乾漆とは、漆で麻布を貼り重ね、支持体を形成する技法です。両領域による、乾漆を用いた造形表現を複合的に捉え直すと、「装飾的表現」と「彫刻的表現」の二つの特性を見出すことができました。この二つの特性が、乾漆ならではの漆造形表現を生み出し、本学アート・コレクション作品に見られる表現性に結実していると言えるでしょう。 

 

本展示は令和4年度 筑波大学人間総合科学学術院・研究科戦略プロジェクト採択課題「東アジアにおける漆文化交流の推進とその継続的支援体制の構築」の成果発表の一部です。 

 

2023年1月16日(月)〜124日(火) 

筑波大学芸術系ギャラリー 

筑波大学芸術系棟2F 

つくばエクスプレス「つくば駅」からバス約10分「筑波大学西」下車
入館無料/09:00→17:00/土・日・祝休日 休館
[主催]筑波大学 芸術系
[お問い合わせ]筑波大学芸術系 川島史也 kawashima.fumiya.gu@u.tsukuba.ac.jp 

 

出品作品一覧 

川村さやか / Sayaka Kawamura 《北の文様》/《Northern Pattern》 2013, 砥の粉麻布卵殻 / Lacquer, Polishing powder, Hemp cloth, Eggshell, 210×170×70.0 cm, 平成24年度(2012年度)茗渓会賞(修了研究) 

長内夏希 / Natsuki Osanai  《りんごは落ちる》/《An apple is falling》 2014, 砥の粉麻布 / Lacquer, Polishing powder, Hemp cloth, Wood, Iron, 106×89.0×122 cm  

飯島聡惠 / Stoe Iijima 《黄色いゼラニウムの咲く場所で》/《The Place Where Yellow Geraniums Bloom》 2015, 砥の粉麻布顔料 / Lacquer, Polishing powder, Hemp cloth, Pigments, 135×320×60.0 cm, 平成26年度(2014年度)筑波大学芸術賞(修了研究) 

宮田岳 / Gaku Miyata 《天を仰ぐ円》/《Circles Catch the Heavens》 

2017, ユリノキスギ / Liriodendron, Cedar, Japanese lacquer, 160×500×240 cm, 平成28年度(2016年度)筑波大学芸術賞(修了研究) 

小谷恵子 / Keiko Kodani 《記憶》/《Memory》 2017, 漆、カツラスタイロフォーム / Lacquer, Katsura, Styrofoam, 80.0×120×70.0 cm, 平成28年度(2016年度)茗渓会賞(卒業研究) 

2枚の絵と1対の彫像が展示されたギャラリー室内の画像

2022年8月1日(月)―9月29日(木)
筑波大学芸術系ギャラリー(筑波大学芸術系棟2階)
9:00-17:00/土日祝休館/入場無料

perspectiveの語源とされるラテン語には、「入念に見る」という意味がある。今日perspectiveは、さまざまな物事に対するわたしたちの視点や見方、考え方、さらには見通しや遠近感などを表している。

SNSなどを介して、ある答えに簡単にアクセスできる現代社会において、わたしたちは自ら思考することを放棄してはいないだろうか。美術作品をめぐってもまた、批評家による評価や解釈と、メディアによる仕掛けに縛られて鑑賞してはいないだろうか。しかし、作品がもつ魅力は、単に既存の解釈によって引き出されるのではなく、むしろわたしたち自身が一見して感じとり、自分なりに「入念に見る」ことで気づく部分も多い。

今回の展示では、鑑賞する位置やアプローチのしかたの変化によって「入念に見る」ことの多様な糸口が提示される作品3点を選んだ。遠くから見えていたものが、近くに立つとまったく異なって見えるかもしれない。遠くからだと平板なイメージとして捉えられていたものが、近づくにつれて、その世界に入り込むような感覚を覚えさせるものに変わるかもしれない。また、作者の意図に沿いながら鑑賞する場合と、作者自身も想定していなかったような視点で鑑賞する場合とでは、その作品から得られる印象が違ってくるだろう。単に「見」るだけでなく、視点を変えて「み」ることで、それぞれの作品世界の広がりを体験してほしい。

出品作品

  • 舩岳紘行《底の手》2010年  油彩、綿布;パネルに貼付  194.3×130 cm
  • 福田健二《霖雨》2010年  紙本彩色  181.8×227.3 cm
  • 土井敬真《もう、ずっと待ってる》1999年  樟、松​  180×247×152 cm

本展覧会の企画について

この展覧会は、博物館学芸員資格に関わる授業の総仕上げである「博物館実習」のプログラム「学内実習」の成果です。筑波大学芸術系では、現職および退職教員や、芸術専門学群および大学院の卒業・修了生からの寄贈作品や卒業・修了制作の優秀作品など400点以上を管理していますが、受講生はグループに分かれ、コンペティション形式でこの学内コレクションを活用した展覧会企画案を立案しました。実施案として全員で取り組むために最終的に選ばれたのが、本企画です。今年の企画案にはこの2年半のコロナ禍における他者との距離に関するものが多くみられました。社会の動きに目を向け、美術館の根幹をなすコレクションをどのような文脈で鑑賞者に提示するのか、そこに企画者の力量が表れます。学芸員を目指す学生たちの初めての企画をどうぞご覧ください。(林みちこ)

博物館実習2022 芸術系受講者一覧

荒井優月、市川結己、伊藤夢絵、稲田和巳、江里萌瑛、江本萌衣、大平香純、木下碧、小池真莉、嵯峨未玲、里村亜呼、下山雄大、正原摂子、白圡恵、波村桜子、藤川朋伽、藤村美吹、宮川嵩広(五十音順)

授業担当教員

寺門臨太郎、林みちこ、水野裕史(いずれも筑波大学芸術系)


鑑賞の手引き

舩岳紘行《底の手》

画面いっぱいに、皺の一本一本や血色のグラデーションが克明に見えるほどに大きく、両手が描き出されています。強い光で照らされた手のひらには、さらりとした質感の白い何かが包まれており、中から小さな四肢が突き出ています。もしかすると、人が埋もれて身動きが取れない状態なのかもしれません。画面の下部で立ち込める暗雲からは火山の噴火口が顔を出しており、両手は遥か上空から差し出されているのだと想像されます。

この作品は、あらゆる観点から鑑賞することができるでしょう。例えば、画中の場所はどこなのか。巨大な手やそれに包まれる白い何か、突き出た四肢はどのような存在で、何を意味しているのか。題名の「底」とは何を指しているのか。画面の外にはどのような世界が広がっているのか……自分なりの分析で想像を深めていくと、作品に対する新たな発見を得られるはずです。

福田健二《霖雨》

背の高い木々が立ち並び、地面には朽ちた木が転がっています。画面中央部で木々の間が開けると、奥に向かって白く、明るい空間が広がっています。白い光はいったいどこまで続いているのでしょうか。

一つひとつの木や葉を観察すると、鮮やかな青、緑などいくつもの色彩が調和しあって、それぞれのものと位置関係を表現しているのが分かります。例えば手前の木と奥の木を見比べると、どのような違いがあるでしょうか。

「霖雨(りんう)」とは、何日も降り続く長雨のことで、渇きを癒す恵みの雨という意味もあります。

作品を観察して、見つけたことを結び付けていくと、はじめて作品を見たときとは異なる視点が生まれてくることでしょう。

土井敬真《もう、ずっと待ってる》

二人の男性が立っています。一人は顎に手を添えて、もう一人はポケットに手を入れて、なんだか手持ち無沙汰な様子。足元にはレンガを思わせる暖色の床面と手前から奥に向かって斜線状に敷かれた点字ブロックが見られ、二人のいる場所を想起させます。また、長袖に長ズボンといった二人の服装から、この作品内に漂うひんやりとした秋冬の空気を感じ取ることができます。

さて、この二人は一体どのような関係なのでしょうか。それは二人の間にある微妙な距離感や視線を向ける方向、その表情と仕草、あるいは題名から読み取ることができるかもしれません。何をしているのか、見つめる先に何があるのか、私たち鑑賞者は彼らにとってどのような存在なのか、読み取った要素から想像してみれば、きっと新たな作品の魅力に出会えるでしょう。

2022年6月27日(月)~7月28日(木)

筑波大学芸術系ギャラリー

筑波大学芸術系棟2F
つくばエクスプレス「つくば駅」からバス約10分「筑波大学西」下車
入館無料/09:00→17:00/土・日・祝休日 休館
[主催]筑波大学 芸術系
[お問い合わせ]筑波大学芸術系社会貢献推進室  sct@geijutsu.tsukuba.ac.jp

SELECTED WORKS FROM THE UNIVERSITY OF TSUKUBA ART COLLECTION
New Acquisition 2021

miyamori keiko
+ memory of the city

June 27 – July28,2022
UT Faculty of Art & Design Gallery
Admission Free
9:00-17:00
Closed: Sat, Sun, and Public Holidays

展示作品
宮森敬子《都市の記憶Ⅲ》2002年 ミクストメディア、亜麻布 230x210cm  作者寄贈 (2021)
MIYAMORI Keiko, Memory of the City III, 2002, mixed media on linen,230x210cm, Gift of the Artist(2021)

宮森敬子《静かな呼吸を感じる環境をつくるための屏風》1994年 墨、鳥の子紙・ 竹 182×300㎝ 作者寄贈(2005年)
MIYAMORI Keiko, Folding Screen to Feel a Gentle Breathing, 1994, india ink on torinoko paper; bamboo, 182×300㎝, Gift of the Artist(2005)

2021年度に新しくUTAC(筑波大学アート・コレクション)に加わった作品は、本 学出身のアーティスト宮森敬子が2002年に制作したペインティング 《都市の記 憶》です。作者から寄贈されたこの作品は、同題の連作ともども長年にわたり個 人の倉庫に眠っていました。UTACにはすでに、宮森が大学院に在籍していた時期 に制作した《静かな呼吸を感じる環境をつくるための屏風》が収蔵されていたこと から、今回それもあわせて展示紹介することにしました。
1964年に横浜市に生まれた宮森敬子は、本学の芸術専門学群と大学院修士課程 芸術研究科で日本画を学びました。《静かな呼吸を感じる環境をつくるための屏 風》を制作した年、宮森は現代絵画の賞である三木多聞賞を受賞したのち一年 間、文化庁在外研修員として米国フィラデルフィアにあるペンシルヴァニア大学 に遊学しました。帰国後の1997年から翌年にかけて、新進アーティストをとりあ げる展覧会「VOCA」と「DOMANI・明日」に立て続けに選ばれた宮森は、その後ふ たたび渡米し、フィラデルフィアに12年、ニューヨークに9年滞在。米国を拠点 に、日本画はもとより絵画という既成の枠にとらわれず、和紙や木炭、墨をはじ めとするさまざまな画材や素材を用いて、異なる時間や場所に存在する自然と人 工物、個と全体の関連性をテーマに、ペインティングやドローイング、オブジェ からインスタレーションまで、幅広く多様な形式と手法で制作と発表活動をおこ なっています。

biographical sketch & exhibition history
1964 神奈川県横浜市生まれ
1993 筑波大学芸術専門学群卒業
1994 三木多聞賞
1995 筑波大学大学院修士課程芸術研究科美術専攻修了
1996 「いばらきバイマニュアル ディアロゴス1996現代性の条件」(水戸芸術館)
1997 「VOCA  ユ97 現代美術の展望ム新しい平面の作家たち」 (上野の森美術館)
  「拡張する美術 ’97」(茨城県つくば美術館)
1998 「DOMANI・明日」(損保ジャパン東郷青児美術館 )
  「流通と大地」(かすみつくばセンター)
2004 Grand Prix, The Meijer Sculpture Competiton (Frederic Meijer Gardens & Sculpture Park House, Grand Rapids [Michigan])
2008 Transformation Award, Leeway Foundation (Philadelphia [Penn.])
2009 Travel Grant, The Center for Emerging Visual Artists (Philadelphia [Penn.])
2010 Fellowships in the Arts, The Independence Foundation (Philadelphia [Penn.])
2015 「宮森敬子展 表面なるもの」(Gallery T、東京)
2018 朝日新聞文化財団助成
2019 「宮森敬子個展 ある小説家の肖像~生きているものと死んでいるものの間 に」(軽井沢高原文庫、北軽井沢)
2020 「宮森敬子展―Surfaces of Time 集められた時の表面たち」(ギャラリーときの忘れもの、東京)

作家サイト https://www.keikomiyamori.com/

UTAC筑波大学アート・コレクション新収蔵作品展
2022.3.30(水)→6.3(金)

2021年度卒業・修了買上作品
2022年3月30日(水)~ 6月3日(金)
筑波大学 芸術系ギャラリー
筑波大学 芸術系棟1階・2階
入館無料 9:00-17:00(土日祝・休館)

UTAC New Acquisition
The Purchased Works from Degree Show 2022
March 30 – June 3, 2022
UT Faculty of Art & Design Gallery
Admission Free
9:00-17:00
Closed: Sat, Sun, and Public Holidays

出品作品一覧

 

1 草野剛《文心雕龍語》2021年, 紙本印影・軸装, 芸術賞(卒業研究)
KUSANO Tsuyoshi, Lines from Wen Xin Diao Long of Liu Xie, 2021, Imprint on paper, H140 x W48cm

2 浜野那緒《How to Wrap Five Eggs by Insects》2022年, ダンボール・パッケージ, 芸術賞(卒業研究)
HAMANO Nao, How to Wrap Five Eggs by Insects, 2022,cardboard,package, H300 x W300 cm

3 藤田悠希《屋彩》20点, 2021年, 陶, 茗渓会賞(卒業研究)
FUJITA Yuki,THE HOME GARDEN, 2021, ceramic (20 works)

4 影山亜美《八百万の神》20点, 2022年, 陶, 芸術賞(修了研究)
KAGEYAMA Ami, Yaoyorozu-no-Kami, 2022, ceramic (20 works)

5 有賀睦《眼差しa》《眼差しb》2022年,水性木版・和紙, 芸術賞(修了研究)
ARUGA Mutsumi, A Gaze (a) A Gaze (b),2022, woodcut, H118 x W88 cm

6 最上健《進化と朽滅》2022年, 樟・水干絵具・墨・藍・天然土絵具, 茗渓会賞(修了研究)
MOGAMI Ken, Evolution and Decay, 2022, camphor, mineral pigment, ink, indigo, H196 x W89 x D62cm

 

筑波大学アート・コレクション選 2021-2
岡崎昭夫

 

2021年12月24日(金)ー2022年3月25日(金)
筑波大学芸術系ギャラリー(筑波大学芸術系棟2階)
9:00-17:00/土日祝休館/入場無料
※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、観覧は学内関係者に限定しております。

 

展示作品

岡崎昭夫
《遠い日-rain-(A)》1977年(昭和52), アクリル・カンヴァス, 130x162cm, 第21回シェル美術賞展3等賞, 平成28年度寄贈
《遠い日-rain-77(A)》1977年(昭和52), アクリル・カンヴァス, 162x194cm, 第23回一陽展 青麦賞, 平成28年度寄贈
《遠い日-rain-77C》1977年(昭和52), アクリル・カンヴァス,162x194cm, 第23回一陽展 青麦賞, 平成28年度寄贈
《反転する表面-2014-》2014年(平成26年), アクリル・カンヴァス,182x224cm,創立60周年記念一陽展 損保ジャパン日本興亜美術財団賞, 平成28年度寄贈

※全6点の収蔵作品の中から4点を展示しています。

UTAC筑波大学アート・コレクションとは

筑波大学芸術系では、芸術専門学群および大学院の卒業生・修了生の優秀作品、および退職教員などからの寄贈作品を400点以上所蔵しています。作品は学内各所に設置されているほか、本展示室「芸術系ギャラリー」においては特に近年新収蔵となった作品を中心に展示公開を行っています。
筑波大学アート・コレクションは大学における美術やデザインの教育研究の成果と、それに関するアート・リソースの集積と位置づけられ、今後も増え続け拡張するコレクションです。


  

2021年8月4日(水)-9月30日(木)
筑波大学芸術系ギャラリー(筑波大学芸術系棟2階)
9:00-17:00/土日祝休館/入場無料
※なお、新型コロナウイルス感染症対策による入構規制のため、学外の方はご覧 いただけません。

 

学生による展覧会紹介

私たちの身の回りは、様々なモノで溢れています。それを「何気ない当たり前」 や「普通のこと」として認識している、もしくは意識すらしていないことがほと んどではないでしょうか。捉え方をほんの少し変えるだけで、モノは 新しく生 まれ変わります。
モノの性質や構造を見極め、似たような性質や構造をもつ物質へ、はたまたそ れとは全く異なる事象に見立て、置き換え、重ねることで、新たな表現が生まれ ます。そしてそんな表現を、少し違う距離や角度から先入観を捨てて見てみる と、思いがけない発見があるでしょう。このようにアートにおける「変身」と は、作者と鑑賞者の双方の目線から起こる相互的な作用であると言えます。
この展覧会では、見慣れたモノを表現の媒介として新たな表現を開拓している 作品を集めました。モノたちのアートを介した「変身」をお楽しみください。
 
展示作品
今美佐子《浮遊2015.05.20》2015年 化粧品成分, 紙, パネル
岡崎昭夫《反転する表面-2012-》アクリル,キャンバス
尾崎拓磨《Layered Fractals》2017年 ボール紙(全100点の一部)
大西未沙子《branch》2017年 木枝, 木製パネル(全25点の一部)

本展覧会の企画について(担当教員より)
本展覧会は、博物館学芸員資格に関わる授業の総仕上げである「博物館実習」の プログラム「学内実習」の成果です。コロナ禍で昨年は実施できませんでした が、今年はオンラインの打ち合わせも活用しながら学内実習を行うことができま した。筑波大学芸術系では、芸術専門学群および大学院の卒業生・修了生の優秀 作品、および退職教員などからの寄贈作品を400点以上所蔵していますが、受講 生たちはグループに分かれ、コンペティション形式でこの学内コレクションを活 用した展覧会企画案を立案しました。実施案として全員で取り組むために最終的 に選ばれたのが本展覧会です。美術館の根幹を成すのはコレクションであり、そ れらの作品をどのような文脈で展示するかに学芸員の力量が表れます。学芸員を 目指す学生たちの初めての企画をどうぞご覧ください。